学校で知っておいてほしい小児がんの基礎知識

※本サイトは独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」助成事業により作成しました。
大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科 岡田恵子先生

小児がんとは

まずは小児がんとはどういう病気なのか、治療内容を知ることが子供達を知っていただく第一歩になります。小児がんというとなじみのない方も多いのですが、白血病や神経芽細胞腫、骨肉腫や脳腫瘍など多くの種類があります。最も多いのが白血病、次に脳腫瘍です。小児がんの特徴は大人と違い、全身にできるという事、大人に多い大腸がん、胃がん、肺がんというのは子どもにはなく、大人とは全く違う病気と考えることが出来ます。

復学と学校

一年間に15 歳未満の小児人口の一万人に一人が小児がんになるといわれていますが、その7-8 割が治癒すると、毎年1000 人に1 人以上の小児がん克服者が社会に進出している計算になります。これは大きな小学校であれば学校に一人くらいは小児がん克服者がいることになります。すでに命だけが助かればよいという時代は終わって、いまは社会復帰することが小児がん治療の第一目標となっています。

小児がんの経験者は本当に尊敬すべき子どもたち

学校の先生に知って頂きたいのは、小児がんの子どもたちは本当に尊敬すべき子どもたちだということです。大人でも点滴をされたり採血をされたりという針を刺される行為は嫌だと思います。私自身も、自分がされるのは好きなことではありません。小児がんの子どもたちはそんな点滴や採血、検査を毎日、通院しても1〜2 週間に一度はしなければなりません。

そして副作用の経験。テレビなどでご覧になったことがあるかもしれませんが、吐気です。吐いている子どもたちを見ていると本当にどうしてあげたらいいのか、背中さすることぐらいしかできません。もちろん、制吐剤(吐気止め)を用いますが、それを上回る吐気を訴える子供が沢山います。このような頑張っている子供をみると頭が下がります。それから外見の問題があります。どんなに幼い子でも髪の毛が抜けたり、皮膚が焼けたりただれたりすることは心を深く傷つけます。生活に制限もあります。化学療法を受けている間は体の抵抗力が低くなっているので、食事において生ものは禁止しています。人ごみの多い場所へ行くのも禁止です。簡単に聞こえますが、お寿司が食べられないとか、生クリームのケーキが食べられないなど子供にとっては辛い事です。

また約半年に及ぶ入院生活。入院中に親御さんが付き添う場合もありますが、病院によっては付き添いを禁止しているところもあります。病気になって辛いうえに親元を離れなければならない。今までは自由に好きなときにテレビを見たり寝たりしていたのに、入院し、寮生活のような規則正しい集団生活を余儀なくされるというのは大変な経験だろうと思います。

復学時、学校に求めること

復学と学校 第一に感染症です。化学療法の副作用として免疫力低下は大きな問題です。退院の頃には免疫力低下が回復してしたり、リンパ性白血病のように治療をうけながらでも免疫力低下はさほどではない場合が多いですが、医学的には化学療法を受けたあと半年〜一年くらいは、一般のお子さんよりは免疫力が低下していると考えられます。大変とは思いますが、給食の生ものは食べられない、園芸などの土いじりや掃除ではカビの胞子などが混ざっていることがあるので、しばらくは避けなければいけないことがあります。またインフルエンザやプール熱などの感冒にかかると重症になることがあります。骨髄移植後はちょっとした感冒が命取りになることがあるのも知っておいて欲しいと思います。

第二に倦怠感。子供にしか分からないのですが、半年も病院にいると、院内学級やプレイルームには行っていますが、筋力がかなり低下します。ですから5分歩いただけで息があがることがあります。また化学療法で貧血が進んでいたり、吐気が残っていたりすると、目に見えない倦怠感が起こっていることがあり、その点を察して頂ければと思います。

第三に機能低下です。これは脳腫瘍の子供に多いと思いますが、病気が治っても、あるいは少し腫瘍が残るなどして、退院はしているけれども後遺症が残ったという場合があります。リハビリ等を行いますが、運動障害で歩くとよたつくとか、字を書くのが難しく思うように書けない、あるいは喋るのが人よりもゆっくりになる、声が出しにくい等などです。また体温調節機能に障害がでると、暑いのに汗がかけずどんどん体温が上がってしまう場合があります。

医療者側は、お子さんが今どんな状態かというのは親御さんには説明しています。ですから復学されてきた子どもの皆が前記の状態というわけではないことを知り、各子どもの状態を親御さんにうかがい、それぞれにあった配慮をしていただきたいと思います。

終わりに

復学と学校 私は外来でいろいろな子供達に合うわけですが、「毎日学校楽しいよ、こんなことがあってん」「今度修学旅行に行く」など、言ってくれるのは何よりの喜びです。全ての病気と闘う子どもたちが健康な毎日を送れますように、我々医療者と学校の先生方、保護者の方がコミュニケーションをとって皆で頑張っていければと思います。

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