ビリーブメントケア〜病的悲嘆の予防と対策〜

埼玉医科大学国際医療センター 大西秀樹
みなさんおはようございます。埼玉医科大学の大西です。本日は「ビリーブメントケア〜病的悲嘆の予防と対策〜」ということで、お話をさせていただきます。基本的に私は精神科医で、大人の専門家です。こういった子どもの会で話すことがいいかどうかわからないのですけれども、死別ということをメインにやっていますので、それについて大まかにお話しさせていただきます。

図_x0020_47 今日は「ご遺族のケア」の話なのですけれども、ご家族とご遺族は連続しています。ですからその話からさせていただきます。ご家族、大変ですよね、皆さんの中にもいま看病をされている方がいるかもしれません。 介護大変ですね、それから日本の場合、治療決定に参加しなければならない、それから、心理的負荷は大きいし、小児の場合は小児慢性特定というのがありますが、大人の場合は経済的負荷がものすごいです。一回での支払いが保険医療でも数万円ということもございます。ですから、様々なストレスを抱えながら家族というのは看病しているわけです。ですから、ご家族は、私どもの世界では「第2の患者」として精神的、身体的ケアを受ける対象であるとふうに言われています。

【なぜ遺族ケアが必要か?】

図_x0020_51 遺族ケアというのがなぜ必要か?ということについて考えて頂ければと思います。僕も始めは何も知らずに始めました。よりよい喪に服せばよいと考えていたのですけれども、実は遺族というのは大変なのです。まず、遺族は死亡率が上がります。これは覚えておいてください。子どものデータはありませんが、55歳以上の男性の場合、奥さんを亡くしてしまうと半年で40%死亡率が上がります。心疾患で亡くなる方が多いと言われています。それから、精神疾患罹患率があがります。「うつ病」という病気、100人の中に、だいたい3,4人いらっしゃいます。だけど、一回忌が終わった遺族100人の中でみると15人がうつ病です。ですから、遺族ケアをやるときに大事なことは、まず、話を聞くことも大事なのですが、「うつ病」があるかないかも確認してください。うつ病のかたは薬である程度治ります。うつ病の方は死別の悲しみの上に、うつ病が上塗りされています。ですから、上塗りされている部分は薬で取らなくてはなりません。ですから、うつ病かどうかを確かめてください。特に、僕のところにケアを求めてくる方、初診時の4割はうつ病です。ですから、その方には、まずうつ病の治療をして、その症状がとれてからビリーブメントケアの話をします。それから、自殺率が上がります。女性10倍で、男性66倍くらいあります。それで、死別後カウンセリングが不安、緊張などを軽減すると言われていますので、遺族ケアは大事だなということが分かってきました。

【遺族に生じる問題】

図_x0020_54 遺族には問題が生じます。今日、皆さまはご熱心ですから、遺族ケアに熱心にあたっていると思うのですが、世の中はそうではありません。まず、遺族に対して無礼な態度を取る人がいます。すい臓がんでご主人をなくされた女性、途方に暮れています。葬儀の時にだれがどこにいるのか分からなくて、機械のように頭を挙げたり、下げたりするだけでした。その後、家でボーっとしている時に電話がかかってきます。親族からでした、“ふざけるな!座席の位置が悪いぞ!謝りに来い!”と、無茶苦茶な電話です。これを聞いてこの後うつ病になってしまいました。5年間苦しみました。それから、心無い言葉をはく人がいます。心筋梗塞でご主人を失った女性のところに、ある人がお焼香にきました。そして、帰り際、玄関でこういったそうです。“お前のせいで死んだんだ!”、と言って、ドアを閉めてでていったそうです。震え上がったと言っていました。それから、無理解。この中にもご遺族の方はいらっしゃると思いますが、一年くらいすると言われる言葉がありますね。“もう、元気になったんだ”、“旅行に行かない?ランチに行かない?”等と言われます。数年経ってもあります。子どもさんを亡くしたことは非常に苦しいです。あとは、今年、これが問題になりました。“配慮のなさ”。これは辛かったですね。亡くなった子供さん宛てに、進学塾入学案内がきました。12歳で、お子さんを白血病で失ったお母さんのところに手紙がきたのです。娘さんは二年前に死んでいます。このように、ご遺族というのは様々なところで、いろいろな問題を抱えながら、生きていらっしゃいます。それを、一つ一つ守らなくてはならない。だから、遺族ケアといっても、話を聞いたり、死別の悲しみがあったりしますけれども、こういったところからも、遺族を守らなくてはいけないということが分かってきました。

【死別からの立ち直り】

図_x0020_55 しかし、みなさん、立ち直ってきますね。いろいろな話を聞いて、少しずつお付き合いをしているうちに、私だけでなく、様々な周囲の方の援助を受けて、少しずつ立ち直っていきます。また、遺族外来の利点として、「ここでは遺族として話ができる」のがいいと言っていました。遺族として話すのは辛いですが、近所の人に言うこともできないし、親族に言うこともできない。それから、夫婦間で違いますね。男性と女性で感じ方が違う場合があります。なので、夫婦間でもなかなか話ができない場合がある。そして、4,5年たったら、悲しい話ができなくなります。だけど、外来というのは、遺族として話ができるので、非常にうれしいと言っていました。恐らく、みなさんが、ピアカウンセリングなどでやっていることも、遺族として話ができること、遺族としての場の提供、という意味で非常に役立っていると思います。死別からの回復にも役立っているし、遺族として話をできる場を提供することがご遺族にはとても良いのではないかなと、私は思っています。ぜひ、みなさんも続けてください。ご遺族を診る遺族外来というのは、特殊なように見えますが、特殊ではありません。おそらく、みなさんが普段、ご遺族と話し合っていることも、遺族外来の一つです。概念的には「後治療」、ポストベーションという概念、後ろの治療と書きますが、「後治療」で概念づけられます。ですから、みなさんがやっていること、あるいは受けている方もいらっしゃるかもしれませんが、「後治療」という概念です。シュナイダーという人の概念です、よかったら調べてみてください。

【立ち直りが難しい時は、、、】

図_x0020_55 一方、立ち直りが難しい時があります。この中にもご遺族の方がいらっしゃるとおもいますが、立ち直りが難しく感じられることもあります。その時、大事なことは、死別からの回復には時間がかかります、ということを覚えておいてください。すぐに回復するということはありません。私の外来で最長の人は、子どもさんを亡くして10年目の人が来ています。ですから、時間がかかるので あせらないでください。それから、誰かと話す機会を持ったほうがよいと思います。ただし、近所の方に何もかも話すのは難しいので、やはり大事なことは サポートグループへ相談するとか、私共のように、医療機関でちょっとお話を聞いてくれるところでお話をすることが、いいのではないかなと私は思います。

【最後に、、、】

最後になりますが、私の自宅は神奈川県の逗子というところにあります。鎌倉から一個先の駅です。関東地方の三浦半島というところにあります。家から海岸まで1km程度で、途中に逗子のデニーズがあるのですが、偶然患者さんが、ご家族と一緒に来てご飯を食べていたんです。その後、絵を描きましたと言って、この絵を描いてくれました。非常にきれいな絵だと思いませんか。最後まで、いい精神状態でいたなぁというのがこの絵からも分かると思うのですが、なぜ、こんな絵が描けたのでしょうか。家族の支えがよかったのですね。それから、私共が、患者・家族を支援している、まぁ、当たり前の事ですけれども、患者さんたち、ご遺族が円滑に機能することが大事なのではないかなと思っています。

今日は家族のケアと遺族のケアに関して、私が臨床的に実践していることをお話しました。あまり、学術的ではないのですけれども、この領域はまだまだ進んでいないので、みなさまと一緒にやっていきたいと思っています。それから、今日ご遺族の方がいらっしゃいましたら、皆さまの悲しみはまだまだ続くと思いますけれども、必ず立ち直ります。人間というのは立ち直る力があるので、自分を信じて待って頂ければと思っています。どうもありがとうございました。

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