第8回全国大会
8月7日
園芸療法ガーデン見学ツアー

大会の始まりは兵庫県立淡路景観園芸学校の見学、園芸療法の体験から始まりました。園芸療法ガーデンの特徴の一つは、見るだけでなく、触る、音を聞く、香りをかぐ、味わうなど五感で楽しめる工夫がされていることです。もう一つの特徴はレイズドベッドというやや高い花壇があることです。これによって車椅子の人も作業できますし、しゃがまなくてもいいので病弱の患児でも園芸しやすくなっています。

学ぼう!園芸療法

兵庫県立淡路景観園芸学校の豊田先生の講演から興味深かった内容を抜粋してみたいと思います。

『バイオフィリア仮説』という仮説の紹介がありました。
エドワードOウィルソン教授(ハーバード大学)らによって実証されているとのことで、「生物学的に備わった自然に対するポジティブな反応」のことを言います。そもそも「人間には、植物や他の生物を含め自然に対してポジティブに反応する強い傾向がある」のだということです。
具体的には
1)人は緑や自然を好む
2)心地よい緑の景観がストレスを下げる
3)ストレスが下がると認知機能が向上する(→創造性の発揮)
といったことが上げられていました。

そしてこの仮説と関連して、植物や自然のもたらすポジティブな反応の具体例として、サンディエゴ病院での調査結果が紹介されていました。この病院では待合を通常の待合室だけでなくガーデンも利用できるようにしているのですが、「不安」(約4割減)、「悲しみ」(4割以上減)、「腹立ち」(約5割減)、「くよくよした気持ち」(5割減)、「疲れ」(2割以上減)、「痛み」(6割以上減)などネガティブな項目のすべてで、ガーデンを利用した人の値の方が2割から6割ほど軽減されているという結果が見られたといいます。痛みの軽減も6割以上軽減されるとは驚きですね。

引き続き豊田先生の講演「学ぼう!園芸療法」からの抜粋です。

部屋に植物があるとα波が増加する
一般的にリラックスしていると脳波のα波が増加します。観葉植物のベンジャミンゴムの樹を部屋においた時とおかない時の脳波の状態を比べてみると、樹を部屋に置いた時の方が、α波が後頭部の辺に多く出ていてリラックスしていることが分かるという実験結果が報告されていました。

高次脳機能障害と園芸療法
・心地よい緑のある環境はストレスと下げ、人を落ち着かせます。
・落ち着くと認知機能が働きやすくなります。
・園芸は落ち着いた環境で、注意機能を用いる機会が多い活動です。
・園芸は、目で見ながら行うくり返し作業が多いので、記憶が苦手な人にも、視覚的フィードバックを行いながら作業を覚えやすい活動です。

豊田先生は、知的障害のある人の就労支援につながる園芸療法もされているそうですが、しているところを見せて、私と同じようにやってごらんという感じでさせてみるとそれだけで農作業、園芸作業を覚えることができるということです。

注意回復理論(ART)
注意にはストレスや疲労を伴う自発的注意と、ガーデンの刺激のような非自発的注意があるとのこと。非自発的注意は自発的注意の疲労を抑える効果があるといいます。すなわち心地よい緑の環境の中では、注意機能は向上しやすいということです。リラックスしながらも注意力が高まるということです。

園芸作業は注意機能をよく使う
種まきや、苗植え、水やり、間引きなど微妙な注意の配分が必要な作業が園芸には多くあります。豊田先生は近赤外線を使って脳のどの部位がどの程度賦活しているのかを観察する試験を行いました。それによってどんな作業がどういう脳の部分を刺激するのかわかってきたと話されていました。

コミュニケーションと園芸
コミュニケーションには言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションがあります。
にっこりした表情や親切な態度は非言語的なコミュニケーションだといえます。芽を出したり、花が咲いたりすると、多くの人が同じような感情を抱いたり、同じような期待をしたりします。注意を共有し共感して無理なくコミュニケーションが行えることで、コミュニケーションが苦手だった人も自然にコミュニケーションが行いやすくなると話されていました。

高次脳機能障害にも効果のある園芸療法。今後も注目していきたいですね。

知っていますか?脳の可塑性

【中枢神経も再生阻害因子を取り除けば再生する】
従来、末梢神経(中枢神経以外の体の各部に存在する細い多数の神経線維)は再生するが、脳や脊髄といった中枢神経は再生しないと考えられていました。
「いったん発達が終われば、軸索や樹状突起の再生の泉は枯れてしまって元には戻らない。成熟した脳では神経の経路は固定されていて変更不能である。あらゆるものは死ぬことはあっても再生することはない(カハール、1927年)」と考えられてきたのです。

しかし、再生することが分かってきました。中枢の環境が神経再生に適していないだけでした。様々なタンパクが働き神経の再生を阻害していたのです。
これらの再生を阻害するタンパクの働きをストップさせることで軸索を伸ばすことが可能となり、中枢神経でも再生します。

もう少し専門的に言うと、中枢神経の細胞を取り巻いているオリゴデンドロサイト。ここにRGM(Repulsive guidance molecule)をはじめとして複数の修復抑制タンパク質が働き、軸索の再生を阻害します。
いったん形成された神経の安定性を保つためにこういうメカニズムが働いているのではないかと考えられています。
RGMは軸索の伸展を阻害するタンパクです。実験して観察してみるとRGMがない状態では軸索はどんどん伸びて先端を伸ばしていきます。これは可塑性が高い状態です。しかしRGMを添加すると動きが止まり、突起は丸まってしまって軸索は伸びて行きません。可塑性が失われるのです。しかしRGMの働きをストップする抗体を投与してやることで軸索は伸び、中枢神経は再生します。
脊髄損傷したアカゲザル(右手右足がマヒ)にRGM中和抗体を投与してやると、豆トリ実験で豆をほとんど取れなくなっていたサルが、豆を取れるようになったことが確認されています。
9割まで運動機能の回復が見られました。神経再生を促進するこのような治療法は、脊髄損傷だけでなく脳外傷、脳卒中、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、緑内障、網膜虚血など様々な神経疾患への応用が期待されています。

【代償性神経回路を形成して機能を回復する】
また、代償性神経回路が形成されることも分かってきました。例えばネズミの実験で脳の左側の皮質脊髄路(運動性の神経回路)が損傷した場合、右手右足の麻痺が現れますが、やがて損なわれていない側(脳の右側)の神経から首のところで、神経の枝が出てきます。枝の行先はというと「介在ニューロン」という予備のニューロンです。この介在ニューロンによって下の末梢神経につながり、新しい代償回路を形成するのです。
ネズミでなくとも霊長類でも運動回路の可塑性は高く、片側脊髄損傷6か月後、軸索の密度は正常の60%まで回復します。中枢神経にも自己修復機能があるということです。

【大切なのはリハビリと免疫】
こうした中枢神経回路の回復を高めるにはどうしたらいいのでしょうか?
まず一つ目に大切なのは、適切なリハビリテーションを行うということです。神経回路の修復機構が分かることによって効果的なリハビリとはどのようなものかがわかってきています。例えば阪大病院の神経内科ではNIRS(近赤外線分光法)を用いたニューロフィードバック技術を開発し、発症後3か月以降の脳卒中後片麻痺患者に対するリハビリテーション効果を高め、片麻痺の回復を促進する効果があることも報告しています。新たなリハビリテーション介入の方法として注目を集めており、現在はパーキンソン病などの脳卒中以外の神経疾患での応用に向けて、関連病院などと 共同で研究を進めています。
もうひとつ大切なのは、免疫や新生血管が神経回路の修復を高めるということです。中枢神経の回路再建には@軸索の進展、A標的部位への誘導、B標的ニューロンの選別とシナプス形成という3段階のステップが必要です。これらのステップがうまくいくために免疫系がちゃんと働いて栄養を補給することが必要です。ストレスが少なければ、免疫力が上がることはよく知られています。こうした点からも豊田先生の話された園芸や緑のある環境はストレスを低減し免疫力を高め、ひいては神経の再生を促進し、脳の可塑性を高めると言えるかもしれません。

【高次脳機能障害の回復も基本は同じメカニズム】
現在の研究は運動機能という低次の脳機能が中心になっています。高次脳機能はもっと複雑ですが、基本的なメカニズムは同じだと考えています。

シンポジウム

今年1月に開催したセミナー「高次脳機能障害とリハビリの可能性」ではリハビリが可能であるということが結論として出されましたが、本シンポジウムではさらにもう一歩踏み込んで、具体的にどうすればリハビリが進むのかということを豊田先生、山下先生のお二人に伺いました。

リハビリに一番重要なこととして、豊田先生がまず真っ先に挙げたのが「リラックスすること」でした。集中できない子を見るとついつい"もっと集中しなさい"となどと声をかけてしまいがちですが、それよりもまず、「目に入るものを減らして集中できる環境を作ってあげること、心地よさが感じられる空間を作ってあげること」が必要だそうです。
山下先生によると、リラックスしている時も脳は活動しており「デフォルト・モード・ネットワーク」という状態にあるそうなのですが、何故この状態の時にリハビリ効果が挙がるのか、その解明は今後の課題とのことでした。

またリハビリの先進的な取り組みとして、現在大阪大学では脳の活動の様子が見られるNIRS(ニルス)という装置を活用したリハビリが紹介されました。まだ臨床研究の段階だそうですが、NIRSの映像を見ながら一種のイメージトレーニングを行うことで、脳の適切な部位を活性化させることができるようになることがわかってきているとのことでした。

山下先生の講演の中で、神経が損傷されても、これまでになかった新たな神経回路(代償性神経回路)が形成されるというお話がありました。このプロセス自体は自然に起こるものですが、リハビリは確実に、新たな神経回路の形成を高めることができます。
また免疫系の細胞が神経回路の修復を助けることから、ストレスを軽減しリラックスすることで免疫系に好影響を与え、間接的に神経回路の形成を促進できるのではないかというお話がありました。

原先生によると、近年は海外の脳腫瘍関連の学会でも脳機能の回復に関する研究がブームになりつつあるそうです。たとえば昨年の全国大会でも柳澤隆昭先生がお話されていましたが、エアロビクスによって海馬の体積が増加したという研究結果があります(クライス第34号p.4参照)。「色々なことを経験することで脳が回復してくるということは研究でもわかってきていますから、諦めないでがんばっていきましょう」という原先生の言葉でシンポジウムが締めくくられました。

淡路人形浄瑠璃チャリティ鑑賞会

淡路島で発祥した本場の淡路人形浄瑠璃。初めて観るという人がほとんどでした。厳かな雰囲気の中、けれど始まると意外と親しみやすく、掛け声やこぶしに合わせて体がゆれていました。子どもたちに日本の伝統芸能に触れてもらうことができてよかったです。

8月8日
患児・家族セッション

通級、特別支援学校、単位制の公立高校…などなど復学後にどのような進路を歩めばよいのでしょうか? そんな時に誰と相談し、何を基準に、どう意思決定していけばいいのか?特別支援教育の専門家を交えて討論しました。「闘病と僕の進路」と題した高2経験者による発表も実施しました。

ICFを学ぶ

小児がん経験者への長期支援
小児がんは晩期合併症を有する可能性があり、慢性疾患として長く付き合っていかなければなりません。教育や社会参加の視点からも、彼らは長期的支援を必要としています。
そこで、子どもの成長発達を見守る視点からICF(国際生活機能分類)概念を活用することで、より生活しやすい、生きやすい可能性が見えてくるようになります。

国際生活機能分類(ICF)
健康状態…疾病・外傷など
心身機能…精神の問題、運動の問題、視覚や聴覚などの機能的な障害
活動…歩行・日常生活動作・家事・職業能力
参加…就労・趣味・スポーツ・地域活動など、実際にどう社会に参加しているか
環境因子…
  物的環境:福祉用具・建物など
  人的環境:家族・友人など
  社会環境:制度・サービスなど
個人因子…年齢、性別、民族、生活感、価値観、ライフスタイルなど

ICFでは「環境因子」「個人因子」という考え方を取り入れることで、生活機能をプラス面から評価できるようになりました。さらに実際にICFを活用する際には、コーディングによって数字で表すことができることも大きな特徴です。1500以上のカテゴリを用いて世界各国の人々と、それぞれの人の特徴を共通言語でやりとりができるようになります。

環境因子の工夫
・日記帳(感情コントロール、注意力・記憶力・遂行機能障害への対応のための工夫)
   毎日の予定を記入し、シールを貼って達成感を出すなどの工夫
・指示の出し方
   5〜7秒以内のキーワードで、一つ一つ伝えるようにする
   いつも必要なことは書き出して貼る

高次脳機能症状が疑われる場合
高次脳機能障害は障害として目立ちにくいので、社会で孤立してしまう危険性があります。
病前の児の性格や気質、生活の様子を聞き、以前と比較して変化している点を正確に把握することや、家族や周囲の人の対応の仕方として、症状を悪くするような不適切な対応がないか振り返る必要があります。

小児がん経験者の易疲労性「不活動の悪循環」
小児がん経験者は、がん治療の副作用や高次脳機能障害から来る「不活動」の期間が長くなりがちです。さらに心理的不安も加わることで身体活動量が減少し健康状態の悪化することによって、自宅内での活動にとどまり社会活動がさらに減少する悪循環に陥りやすいのです。

筋発達の未熟さに由来する外反扁平足
日常生活で歩く機会が少ないために、外反扁平足や尖足、関節の柔軟性の問題が出やすいという特徴もあります。たとえば、外反扁平足では足の裏全体を接地させて歩くことで、より疲れやすくなってしまい、さらに歩くのが億劫になってしまうかもしれません。 解決策としては、ハイカットシューズで足を安定させる、足底装具を履く、足の関節のストレッチを指導する、などの方法があります。

小児がん患児の学校体育参加状況
学校体育では過剰に運動制限を行っている場合がよく見られます。
本人が嫌がるケースもありますが、一方で学校教員がどう対応すればいいか分からないケースもあります。
運動に対する受け身の姿勢、運動嫌いの習慣化から体力が低下し、さらに社会参加が困難となっている者が少なくありません。

幼小児期の運動の意義
疾患・障害の有無に関わらず、子どもたちにとって運動やスポーツは、自信をつけ、仲間を作り、自立につなげる手段になる可能性を秘めています。

幼小児期の運動能力・体力の発達
年齢に応じて変わってくる(参考資料:宮下充正『子どもに「体力」をとりもどそう』)
幼児期:神経系の発達の関わるような動作の習得
小・中学生:持久力や精神力などの粘り強さの習得
中・高校生:力強さの習得

小児がん経験者の体力低下
小児がん経験者が体力の問題を認識し、適切な運動習慣を身につけてどう社会参加を促していくか、易疲労性の改善していくためにどう環境を整えていくかが大きな課題です。
運動についてはリハビリ訓練とはまた別に、学校教育や地域に根ざしたところで気軽にスポーツを楽しめる社会を作ることも大切です。 運動に「参加」することで、機能的な体力や社会性が向上し、運動をきっかけに環境因子である仲間が増え、結果としてさらなる社会参加へ繋げることができます。 またスポーツでは自らの判断で試合やゲームを進めていく臨機応変な対応が必要であり、スポーツへの参加が小児がん経験者のエンパワメント(自己決定や問題解決能力をみにつけていくこと)へつながることも期待できるのです。

コミュニティスポーツプログラム
コミュニティスポーツプログラムの一つとして、「スポテン(https://www.nanfes.jp/spoten/)」という活動があります(上出先生が関わっているそうです)。内部障害や高次脳機能障害、がん経験者など目に見えない障害にも関わらず、体力不足が背景にあるために、就学・就労等、社会参加に関わる問題を抱えている人々が対象で、その日の参加者に合わせてルールを工夫したスポーツ活動を実施しています。

ICFを使って小児がん経験者の社会参加を促進する
心身機能・身体構造がどのように活動や社会参加を妨げているのか、さらに環境面との関連性に注目し、どこを改善すればいいのかを考えるツールとしてICFを活用することができます。中でも最も取り組みやすいのは環境へのアプローチです。
環境因子の中に「よく知らない人」というコードがあります。たまたま出会ったよく知らない人が日常生活には沢山おり、その集まりが社会だと考えれば、よく知らない人に対して自分から助けを求めたり、自分がどういう風にしてもらったら参加しやすいのかがわかってくると社会参加がしやすくなるということができます。

現在作成している評価表
子どもの社会参加がどれくらいできるかを評価する上でICFは有用ですが、たくさんのコードをチェックするのはとても大変なことです。
そこで基本動作、セルフケア、活動性、教育、余暇活動に特化した評価表を現在作成中です。

質疑応答
Q.コミュニティスポーツプログラムに参加したいが、関西で同じようなものはないのでしょうか?
A.各地域でどのようなことをやっているかは把握していませんが、コミュニティスポーツという概念自体は様々なNPOなどが取り入れているので、インターネットで調べてみると子どもたちだけを集めたプログラムなどが見つかるかもしれません。また身体障害者手帳を持っている場合は、身体障害者センターに行くと幼児向けのプログラムを定期的に実施していることもあります。
問題は子どもが運動嫌いになってしまうことで、それはすごく残念なことです。スポーツは本来楽しいものであl、うまくゴール設定しながら本人意欲を引き出すことが重要です。まずはご家族で一緒に運動を楽しむところからはじめてもいいかもしれません。ぜひスポーツが好きな子に育ててあげて下さい。

Q.子どもが下肢の筋力が弱く、外反扁平足のため中敷きを使用しています。正しい歩き方をすることで関節の柔軟性も向上するのでしょうか、それとも諦めた方がいいのでしょうか?
A.外反扁平足と関節の柔軟性は分けたほうが良いです。外反扁平足に対しては足底板が有効ですが、関節の柔軟性に対してはしっかりストレッチをすることが大事です。お風呂あがりなど血流がよくなったところでしっかりやってあげたり、または足の踏み台(タウンページで代用可)を使ってストレッチすることもできます。またわざとデコボコの道や坂道などを歩くことで、筋肉が発達していくということもあります。

最新情報セミナー

@小児がん治療と子どもの発達
(大阪市立総合医療センター副院長 原純一氏)

脳の発達・発育は、大きく分けて3つのファクターによる影響があると考えられている
@心理的影響 A生物的影響 B社会的影響
「4歳の時の社会的、家族的危険因子の数と13歳のIQは相関する」というデータがでている。乳幼児期、貧困や親からの暴力、不十分な教育などのリスク因子がたくさんあればあるほどIQが低くなってしまう。
小児がんになり治療を受けた経験が危険因子になるとすれば、どのくらいの危険因子があるのでしょうか。
危険因子は、@女性である A治療時の年齢が小さい B放射線量が多い C頭部への放射線治療と化学療法の併用 D低い社会経済状態
これら5つが危険因子となると考えられる。ただし小児がん経験者の認知障害は、一般的な発達障害とは少し異なるものである。

A治療中の発達を援助する
(大阪市立総合医療センター病棟保育士 岸本典子氏)

病棟保育士の岸本さんは、入院している子どもたちと保育士がどのように関わりながらすごしているのかということを事例などを交えお話し下さいました。
小児がん患児のように長期入院を強いられる子どもというのは、病院の中やベッド上という狭い空間の中だけで生活し、そのために人との関わりも限られ、スキンシップの機会が減ってしまいます。また治療のため苦痛や制限が伴いますので、これまでできた経験が中断され自発的な行動が少なくなっていきます。そのような子どもたちに対し病棟心理士は、子どものありのままを受け止め、細やかな援助や関わりをすることで、心の安定をはかれるよう努めています。

B長期フォローアップ外来から見えてきたもの

小児がんの治癒率は飛躍的に向上し、700人に1人は小児がんサバイバーという時代になってきました。それと共に、サバイバーの多くが何らかの合併症を抱えながら社会で生活していることが分かってきました。晩期合併症をいち早く見つけて、適切に対応できるようにするのが「長期フォローアップ外来」のねらいです。総合的にみていき、必要ならば他の科や専門機関、専門職につなぎます。あるお母さんは「これからは子どもが自分で自分のことを管理できるようにならないといけない、と考えられるようになりました。」とおっしゃいました。そんな自立するきっかけになる場でもあると思います。サバイバーの方々がひとりで悩みを抱え、社会で孤立しないようにしてほしい・・・それが全国の「長期フォローアップ外来」に携わるスタッフ共通の願いなのです。

C小児高次脳機能障害の評価と支援
大阪市立総合医療センター小児言語科 温井めぐみ氏

治療が終わって退院が決まった時、元の生活に戻った時に「私って、うちの子ってこんなだったっけ」と違和感を感じた時には、高次脳機能障害の疑いがあるかもしれません。
高次脳機能障害の子どもに対しては、状態を評価して適切な介入や環境調整を行い社会参加を促すこと、さらに社会参加を促すことによって機能が改善されるという好循環に持っていくことが治療の目標になります。

小児言語科とは
「失語症」を中心とした高次脳機能障害に対する評価・指導を行っています。
具体的には・・・
・得意、不得意のアンバランスさの評価
・失語症に対する訓練、訓練施設の紹介
・代替手段の提案
・学校や幼稚園、保育所の先生方との面談

高次脳機能障害の全体像
脳の機能のうち、生命維持機能や基本的な知覚機能よりも上位に位置するのが高次脳機能です。

高次脳機能障害診断基準からの抜粋
@原因がはっきりしている(受傷の事実がある)。
A記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害によって、日常生活または社会生活に制約がある。
B頭部画像検査で異常が確認できる。
C.受傷または発症以前から有する症状や検査所見は除外する。
→以前から変化したと感じる事柄や客観的事実が大切なので、医療機関を受診する際には幼稚園の先生が書いてくれるような毎日の園の便りや小学校の通知簿など、客観的に前と変わったことがわかるデータがあると診断がしやすい。 急性期を脱した後に評価を行い、すべて満たした場合に高次脳機能障害と診断されます。

高次脳機能障害の症状
1.失語(言葉がなかなか出ない、言葉を理解できない)
2.視覚失認(見えているのに、それが何か分からない)
3.失行(手足は動かせるのに適切な動作ができない、髪を梳かせない・釘が打てないなど)
4.記憶障害(すぐに忘れる、新しいことが覚えられない、同じことを何度も言う)
5.注意障害(気が散りやすくミスを繰り返す、ボーッとしている)
6.遂行機能障害(優先順位をつけられない、段取りが悪い、急なことに対応できない)
7.社会的行動障害(依存性や意欲の低下、我慢できない、強いこだわり、対人関係の障害)
8.易疲労性(疲れやすい)
9.半側空間無視(右側だけ判断しにくいなど)
10.病識欠如(自分の病状を客観的に評価するのが難しい)

検査
年齢に応じて、複数の検査を組み合わせながら評価を実施しています。知らない大人と一対一になり、初めて見る難しい問題を解くときに、どのような反応をするのかなど、回答内容以外の情報もチェックしています。
ただし検査室だけではわからないこともあります。集団の中でどのように適応しているかという情報については、学校や園、自宅での様子を書いた資料などを参考にしています。これらの資料によって普段の様子や集団での困り感がよくわかり、診断に重要な資料となっています。

訓練
訓練では、「神経心理ピラミッド」(ニューヨーク大学リハビリテーション医学ラスク研究所)における、下から順に整える必要があります。
「自己の気付き」(自分を客観的に見る力)を訓練したいとおっしゃる親御さんは多いですが、この「自己への気気付き」はピラミッドの最上部なので、ここを鍛えるのは後回しにした方がいいと言われています。
まずは「疲労の改善」をすること、その次に子どもの「モチベーションをあげる」ことも大事になってきます。
それから「環境調整」や「情報量を整理する」を行いましょう。具体的な方法としては、気の散らない環境を整えることや、本人のレベルにあった課題を適切な分量で与えることなどです。そして、その次に来るのが「記憶」の訓練になります。
高次脳機能障害がどのような組み合わせで出るのかは子どもによって大きく異なるため、まずはお子さんがどの機能が残っているのかを把握することから始めましょう。残っている機能や得意な機能を使うことで、効率的に訓練を進めることができます。

支援
高次脳機能障害の症状の組み合わせは千差万別なので、支援も一人ひとりに合わせたものが必要になります。

記憶障害への支援
記憶にはいくつかの種類がありますが、そのなかでも「展望記憶(未来の記憶)」は一つのミスが社会的な信頼にも関わることから特に重要になります。
・何かすることがあった→毎日、同じ時間、同じ場所、同じ方法で確認することで体に染み付いてくる
・することは何か→外部メモリーを使用する(iPadやiphone、笛吹きケトルやタイマー、袋や付箋の活用)

易疲労性(疲れやすさ)への支援
・課題を分割して提示する
・見通しを持たせる(あとどれくらいで終わるのか)
・うまくいっていることを言葉で伝える
・疲れたら休憩する
・周囲には、児の得意・不得意を伝えるようにする

平成19年「障害者の権利に関する条約」
平成23年「障害者基本法の改定」→「合理的配慮」は国及び地方公共団体の義務
平成28年4月「障害者差別解消法」
 障害者が壁を感じずに生活できるように合理的な配慮をすること
 行政(=学校)は法的義務。民間企業は努力義務。

家族・周囲の心構え
1.「何かヘン」と思ったら、家族が動く
2.障害を理解し、共に立ち向かう
3.病前と比較しない
4.「頑張れ!」ではなく「頑張ったね」
5.本人への思いが本気であることを態度で伝える
6.時間を与えて、自分で最後までやらせる
7.本人の意思を尊重する
8.できること、できないことを整理して周囲に伝える
9.時には、思い切って参加させてみる
10.家族の気持ちを吐き出せる場所を作る

まとめ
・病気が治って退院した後、「私って、うちの子ってこんなだったっけ」と思うときは高次脳機能障害の疑いがあります。
・脳の障害部位によって様々な症状があらわれ、またその症状の組み合わせはそれぞれの子どもによって異なります。
・なにもかもができなくなっている訳ではなく、できることとできないことにばらつきがあります。また、体調や気分によってできたりできなかったりします。
・家族の理解、そして周囲の理解により、本人・家族が自分らしく、頑張りすぎずに生きていけるようにサポートすることが大切です。


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